教育現場にイノベーションを起こす「エドテック(EdTech)」とは?注目の背景や具体的な事例も紹介
セガ エックスディーの松尾です。
皆さん、エドテックってご存じですか?
エドテック(EdTech)は、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた造語です。
教育分野において様々なテクノロジーを用いることにより、学びを支援する仕組みやサービスを指します。
類似語としてICT教育やeラーニングなどが挙げられますが、エドテックはテクノロジーの力で教育にイノベーションを起こす取り組み全体について指す言葉となっています。
十数年前から注目されていた言葉ではありますが、2020年のコロナ禍よりさらに注目を集めています。
今回はそんな「エドテック」について解説したいと思います。
■エドテックが注目される背景
エドテックが注目される最大の理由として、「GIGAスクール構想」の実現が挙げられます。
GIGAスクール構想とは、教育を受けるすべての児童生徒に1人1台の端末と、教育機関の高速大容量の通信ネットワークを整備することにより、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現するというものです。
GIGAスクール構想が実現すると、学生の理解度や進捗状況に合わせた学習計画の作成、能動的に授業を受けるアクティブラーニングが可能となります。
また、感染症などの影響により、教室で一斉に授業が受けられないといった突発的な出来事が発生した際にも、学び続けられる環境づくりとして期待されています。
GIGAスクール構想を背景に、インターネットを利用した学習環境が整備されていく中で、エドテックに注目が集まり、既存の教育にイノベーションを起こしています。
■エドテックで得られるメリット
では、エドテックではどのようなメリットが得られるのでしょうか?
エドテックを活用すると「学習者」「指導者」の両方にメリットがある状態をつくることができると言われています。これまで把握することができなかった個々の進捗や、個人のペースに合わせた学習が実現することにより、教育の質向上や主体性など、「学習者」に様々なメリットが生れます。また、それらを管理する「指導者」も、生徒の学習状況をデータで管理することができるため、個々の理解度の把握や個別対応がしやすくなり、結果テクノロジーの力で負担の軽減にも繋がります。主なメリットは、以下4点です。
個別最適化された学習
これまでの学校では30〜40人に対して1人の教員が教える一斉授業スタイルが一般的でした。しかし、このスタイルだと子どもたち一人ひとりのつまずきや考えなどを拾うことができず、画一的な指導になってしまうことが問題点として挙げられています。
エドテックにより個別最適化(パーソナライズ)された学習を行うことで、それぞれの進行度合いに合った学習が可能となり、学習の定着を促すことができます。
思考力や主体性の育成
センター試験が2020年に廃止され、共通テストが導入されたことは記憶に新しいと思います。
現在の日本では、学生が身に付けるべき力として記憶力重視の教育から「思考力」や「主体性」重視の教育に変化してきています。
エドテックを活用して学習者が自分のペースで学ぶことができるようになると、自分なりに考える思考力や積極的に学ぼうとする主体性が育まれると期待されています。
教育格差の解消
都市部では個性に合わせたサポート機関や、専門性に特化した塾など幅広い選択肢がありますが、地方ではそういった施設が不十分な地域も多くあります。
エドテックを活用することにより、地域に縛られない教育コンテンツを利用することができ、教育格差の解消に寄与すると期待されています。
教師の負担軽減
子どもたち一人ひとりの学習データを集めることができるため、どこでつまづいているのか、どんな部分が得意なのかを把握することができるようになり、指導者が明確に教えやすくなります。
また、教師は授業だけではなく、採点や生活指導など、様々な仕事をしています。エドテックの活用により教師の負担が軽減できると、より生徒に目を向ける時間を増やすことができるため、結果的に教育の質向上に寄与できるとされています。
■具体的な事例の紹介
Webメディア、SaaSサービスを提供する株式会社ユアネットが公開するICT教育(EdTech)サービスカオスマップJAPAN 2023では、映像授業、授業支援、校務支援の3つのカテゴリに分けてマップ化しています。このカオスマップを見るだけでも非常に多くのサービスがあることがわかりますが、今回はそれら3つのカテゴリより、エドテックを取り入れた具体的なサービスの事例を紹介します。
【映像授業】 スタディサプリ
「スタディサプリ」とは、インターネットを通じて授業を受けるオンライン授業形式の学習支援サービスです。小・中学校まで戻って学び直し、基礎を固め直すことができたり、まだ習っていない範囲の先取りも可能となるため、自分のペースで学習することができます。
【授業支援】 Monoxer(モノグサ)
「Monoxer」は、AIを活用したアダプティブラーニングにより、知識習得や記憶定着を可能とするアプリです。個人の記憶状況から得意・苦手を把握し、憶えるために最適な問題を自動生成します。
【校務支援】 SCHPASS(スクパス)
「SCHPASS」は、スクール運営に必須の連絡や事務作業を、PC・スマートフォン・タブレットから簡単に実行できる指導者を支援するツールです。オンライン授業だけではなく成績管理やアンケートまで業務に必要な各種機能が揃っています。
■エドテックの効果を高める具体アイデア
エドテックは、既存の教育分野において課題であったことを改善するサービス・ツールです(学びにおける課題はもちろんのこと、指導者側の業務改善も含みます)。
しかし、どれだけ優れた技術でも、顧客体験(CX)があまり良くないサービスになってしまうと、ユーザーが離脱してしまい、サービスとして成り立たなくなってしまいます。
特に子ども向けサービスであれば、自発的に「やりたくなる」「やり続けたくなる」ような仕掛けづくりが重要となります。
そのため、「やりたくなる」「やり続けたくなる」モチベーションへと働きかける「ゲーミフィケーション」は、非常に相性が良い概念です。
「ついやりたくなる」人を動かす8つの属性
セガ エックスディーでは人間の行動原理をベースとした「ついやりたくなってしまう」8つの属性を定義しています。そして、人々がついやってしまったり夢中になってしまう行動を、それら属性それぞれに対応する9つの要素(計72個)で構成されたフレームワークとして活用しています。
今回は、その中からエドテックと進展性を組み合わせたアイデアをご紹介します。
進展性
進展性は、前に進む・広がる変化を好む属性です。
子どもの頃にラジオ体操でスタンプを押してもらえることで、日々達成感を感じた記憶はありませんか? 学生時代に偏差値やテストなど、点数の変化に⼀喜⼀憂した方もいると思います。数値化された指標の変動や目標に対する進捗が可視化されることに対し、強く動機付けがなされる属性が「進展性」です。ゲームUXでは「経験値をためてレベルアップ」「ミッションを1つずつクリアする」などのシーンで活用されます。
エドテック ×「段階ゴール」×「称号」
勉強の進行度合いを、ゲームのスキルツリーのような形で表示して進めることで、キャラクターを育成するように勉強を行うことができるようになります(スキルツリーとは、ゲームでキャラクターを育成する際に使われる枝状のフローチャートのようなものです)。
「この単元をするためには、この学習が必要である」という、学習ごとの関わりが視覚化できるため、全体像が分かると同時につまづいた際に戻りやすくなります。
また、スキルツリーを埋めることにより称号を獲得できると、それを目標として長期間のモチベーションを維持することができます。
これらを指導者が確認できるようにすることで、学習者の得意不得意や興味関心度合いを把握することができ、適切な指導に繋がると考えます。
このようにして、「ゲーミフィケーション」を活用することによって、継続的にエドテックのサービスに触れてもらうことが可能になるのではないでしょうか。
■まとめ
いかがでしたでしょうか。エドテックは、教育分野においてテクノロジーを活かして新しいアプローチを生み出すことができる考え方です。
今まで鉛筆とノートが主流だった教育分野も、インターネットを利用した学習環境を整えることで様々な選択肢を選ぶことができるようになります。エドテックを導入することにより、学習者や指導者に限らない教育現場の様々な課題が解決できる可能性を秘めています。
また、そこにゲーミフィケーションの考え方を組み合わせることで、学習者の主体性や継続率の向上など、更なる効果を生むことができると考えています。将来的に、勉強で取り残される子どもがいなくなる世の中の実現も、夢物語ではないかもしれません。
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執筆:松尾 龍弥|株式会社セガ エックスディー
大学在籍時、メタバースで町おこしを行う会社を設立。より幅広いエンタメを活用したビジネスの経験がしたいと考え、2024年にセガ エックスディーへ入社。会員向けゲームの開発・運営やUI設計に携わる。XR・メタバース・VTuberなどバーチャル領域に関心が高く、新しいものにはすぐ飛びついてしまうタイプ。
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