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コロナ禍の反動でより顕著になった『オーバーツーリズム』を解消するためには?

セガ エックスディー プロダクトマネージャーの黒田です。
今回は、昨今注目が集まっている「オーバーツーリズム」について解説したいと思います。

オーバーツーリズムとは?

オーバーツーリズムとは、特定の観光地において、観光客が過度に増えることで騒音やポイ捨てなどのマナー問題や混雑化によって自然環境や地域住民の生活環境、観光客の観光体験に悪影響を与える状態のことです。


オーバーツーリズムが注目されている背景

「昨今注目されている」というより、正確には昔から存在していた問題であり、単語としては2015年頃から生まれた造語と言われています。特に近年はコロナ禍による観光体験の抑制の反動や円安の影響もあり、日本でも訪日外客数が2024年6月に単月過去最高を記録するなど、各地に観光客が増えたことによる観光地の混雑が、例年よりも多くのニュースに取り上げられています。単に人が増えたことも問題点の一つですが、コロナ禍の制限された状態から解放され、「急激に人が増えた」ということが対策不足をより顕著にさせたことや、コロナ禍の影響で店舗数が全国的に減少気味になっていたことも原因ではないかと私は考えています。
また、オーバーツーリズムは日本だけではなく、海外でも大規模デモが起きるほどの問題になっています。

オーバーツーリズム対策の具体的な事例

それでは、具体的にオーバーツーリズムの対策を行っている事例をご紹介します。

1.京都府・京都市

日本の観光名所としても有名な京都市では、観光客が過度に集中し、バスが混雑することで地域住民の通勤や買い物などの移動に支障をきたしていました。原因としては、京都市交通局が発行している「バス1日乗車券」によって、観光客の移動手段がバスに集中していたことでした。これに対して、「バス1日乗車券」をバスのみではなく、地下鉄全線を対象とすることで、移動手段を分散させました。
また、荷物によって座席スペースが埋められてしまう問題もありました。観光案内所では荷物の一時預かりだけではなく、滞在先への配送に対応することで「手ぶら観光」を呼びかけています。

2.沖縄県・西表島

西表島は2021年に「世界自然遺産」へ登録され、観光客が急増した場所です。そのため、島民の生活や自然環境・動物保全を目的として2023年4月より、入島人数の上限を設定しています。
これにより、島のキャパシティを超えないように配慮しています。

3.アメリカ・ハワイ州

オーバーツーリズムは、日本だけではなく海外でもデモ活動が起こるほど問題視されています。ハワイ州の観光局では、観光客にハワイの歴史や文化を正しく伝えて、マナー遵守を求めています。
例えば、絶滅危惧種が多く生息する自然環境や、貴重な生物に対して理解を促し、思いやりの心を実践する「レスポンシブル・ツーリズム(旅先に配慮すること)」を掲げています。

オーバーツーリズムの具体例をご紹介しましたが、現状の様々な取り組みに対して、観光系事業者や各自治体でも工夫次第で更なる効果をもたらすことができるのではないかと思います。
例えば、今回紹介できなかった地域でも、完全事前予約性や、○○禁止など行動を制限するような取り組みもあります。
ですが、必要だとわかっていても旅行者の立場からすると、せっかくの休みで自由に行動したい中、制限される項目は少ない方が良いですよね?(もちろん、マナーは守るべきという前提の上でですが…)
皆さんも一度は「あれはダメ」「これはダメ」という制約を受けた経験はあるかと思いますが、せっかくなら観光客にとっても楽しみを阻害されない対策であり、それが有効的な対策であれば全員がWin-Winな状態を作れるのではないでしょうか。

ここから弊社の強みでもある「ゲーミフィケーション」の活用によって、この課題に対する打ち手を説明したいのですが、その前に「ゲーミフィケーションとはそもそも何か」をご説明します。


そもそもゲーミフィケーションとは何なのか?

私がさまざまな方々とお話しする中で、よく皆様からいただくのは、「ゲーミフィケーションってどんなことするの?」という声です。

そのため、ゲーミフィケーションを活用したアイデアをご紹介する前に、一度ゲーミフィケーションについて説明させていただきます。

ゲーミフィケーションとは?

ゲーミフィケーションは、ゲームに用いられる要素をゲーム以外の分野にも応用することで、ユーザーのエンゲージメント向上や、つい○○したくなる体験を生み出すことです。

ゲームの要素と言うと、アクションゲームやRPGの育成要素であるレベルアップ、ゲームを有利に進めるアイテムなどがありますが、単にそれらの要素を入れれば良いという話ではありません。
大事なことは、レベルアップもアイテム獲得も、ゲームプレイを進める上で熱中するための一要素であり、これらの要素で最終的にユーザーはどうなっていくのかを定義していく必要があります。
このゲームの要素とユーザーの行動を紐づけて、サービスやユーザーのあるべき姿を実現していくための手法がゲーミフィケーションであると考えています。

では改めて、「ゲーミフィケーション」を活用した対策について、ご紹介します。

オーバーツーリズム対策の効果を高める具体的なアイデア

「ついやりたくなる」人を動かす8つの属性

セガ エックスディーでは、人間の行動原理をベースとした「ついやりたくなってしまう」8つの属性を定義しています。そして、人々がついやってしまったり夢中になってしまう行動を、それらの属性に対応する9つの要素(計72個)で構成されたフレームワーク(ゲーミフィケーションボード)を活用しています。

今回はオーバーツーリズム対策に向けて進展性、偶発性、保持性を組み合わせたアイデアをご紹介します。
 
進展性
進展性とは、人は「進歩実感」によってモチベーションが刺激され、行動が喚起されることを活用した手法です。

偶発性
偶発性とは、偶然起きたことに対して好奇心が湧くことで動機づけられる人の特性を活用する手法です。

保持性
人のもつ「愛着」や「一貫性の原理」が行動に及ぼす影響を活用する手法です。

オーバーツーリズム対策×「進捗可視化」×「抽選ギフト」×「未解決問題」

例えば、自治体主導で観光地内のスタンプラリーを開催します。
指定された場所でスタンプを集めることが出来れば、現地で使える値引きクーポン券などが得られる設計にし、人気のある場所だけではなく、電車の駅や人が集まる場所から少しだけ離れた場所にスポットを用意します。
そうすることで、スタンプを集めるために人がまばらになるだけではなく、あまり人が集まりにくい場所にも観光客を誘導することにも繋がるのではないでしょうか。

ここで大事なことは、スタンプラリーに参加するだけの魅力があるかどうかが重要です。世界観などの面白さを生み出すことも大事ですが、もらえる報酬が大きいほど、人の行動は喚起できます。当然報酬が大きなモノは、その分のコストがかかります。そのため、「抽選ギフト」を用いることにより上限を設定し、コストの青天井化を防ぐことが可能となります。
ただし、当たると思われるぐらいの確率の設定が必要であったり、ハズレを無しにする手段でも行動喚起に繋げられるなど、さまざまな要素を留意して設計する必要があります。

また、「いきなりスタンプラリーとなっても1から集められるのか?」という疑問があるかと思います。人は不完全な状態のモノに対しては「一貫性の原理」が働き、完全な状態にするための行動をしたくなる特徴があります。これに対しては「未解決問題」を活用し、初めからいくつかのスタンプが埋められている状態とすることも必要な要素です。

最後にスタンプカードに共通することですが、現在の進捗度合いを可視化することにより、自身が確実に進歩していることを定量的に認識させることで、進歩実感を得て、行動に対するモチベーションを喚起させることができます。

このようにすると、ユーザーは、報酬をもらうためにスタンプラリーに参加していたとしても、意図せず混雑緩和にも協力している状態を作ることが可能になります。

オーバーツーリズムの根幹は、多くの人が周りに配慮し、節度ある行動をすることです。ただ、それが出来るのであれば、そもそも「オーバーツーリズム」という言葉も生まれなかったのでしょう。
では、どうやって防ぐのか?地域住民や周囲の人を意識した行動ができなくとも、”自身のためであれば行動することができる”という前提に立てば、その人が自分のために行動した結果、周囲の人にも結果的に配慮しているように促すという方法が望ましいのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回、オーバーツーリズムの1事象を例に取り上げましたが、必ずしも利便性の改善や制限をすることだけが解決方法ではありません。私も地方都市や観光地に住んでいたことがありますが、利便性の改善をしようにも人手不足や資源不足によって、その選択が難しい地域もあると感じています。

とはいえ、せっかく観光客が来たのだから、どうせなら自分の街を好きになってほしい、人気のある街にしたいという想いはあるかと思います(少なくとも悪印象は持たれたくないのではないでしょうか)。

観光客自身にはあまり意識させずとも、地元の人々や環境にいい影響を与えられるように促す方法はいろいろとあります。是非この機会に「ゲーミフィケーション」の扱い方について、検討してみてはいかがでしょうか。

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執筆:黒田 恭平|株式会社セガ エックスディー

大手銀行を経たのちに、新規事業特化のコンサルティング会社にて、ECサービスやSaaSプロダクトを中心に営業、マーケティング、カスタマーサクセスを経験。
最年少事業責任者兼地方支社長として、新規事業の立ち上げを主導。Webを活用した新規事業における企画やCPF~グロース領域を得意とし、株式会社セガ エックスディーに入社後は、ディレクターとしてクライアント企業と共にエンタメを活用した、新規事業の企画開発を担当している。
日々アニメとマンガばかり見ていて、その数は計800作品以上。


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