行動経済学を理解した私はポーカーで無双できるのか?
はじめまして、山東です。セガ エックスディーのエクスペリエンスデザイン部のプロデューサーをしています。
私たちの仕事は企業や自治体などからご相談を受けた様々な課題に対して、ゲームやエンタテインメントの仕組みを活かして「ついやってしまう」ようなサービスを共創する仕事です。
ただゲームやエンタテインメントの仕組みをサービスに組み込むのではなく、行動経済学の理論やUXを意識して、人間の心を動かす仕掛けづくりが得意です。
そこで今回は、ポーカーの中でも世界的に大流行している「テキサスホールデム」のプレイをケーススタディとして、行動経済学で提唱されている理論やバイアスがプレイにどう作用しているかを考察したいと思います。
テキサスホールデムのプレイ勝率を高めたい人はもちろんのこと、受験や試験など失敗したくない大事なシーンで良い選択をしたいと思う人に、役立つnoteになれば嬉しいです。
最近流行中の「テキサスホールデム」について
もしかしたら、テキサスホールデムを知らない方もいらっしゃるかと思いますので、簡単に紹介します。
テキサスホールデムとは?
世界で1億人以上の競技人口を持ち、海外では多額の賞金を獲得するプロプレイヤーもいるマインドスポーツ※です。
※マインドスポーツとは、頭脳で競い合うスポーツのことで将棋やポーカーといった戦略性の高いゲームのことを指します。
日本でもアミューズメント施設がここ数年増えている!
日本ではプレイヤー人口が80~100万人で、現在は都内のアミューズメントバーは200店舗に届く規模まで増えています。地方都市でも徐々に出店が見られる状況であり、弊社グループでも都内の目黒に店舗をオープンし連日ポーカーファンが通い、賑わっています。
▼m HOLD'EM 目黒
テキサスホールデムの具体的なルール
ルールの詳細は、m Portalがとても分かりやすく紹介しています。
ぜひ、こちらをご確認ください!
ケース①
さて、ここから本題です。
テキサスホールデムをプレイしたことのある方なら一度は経験があると思いますが、なぜ最後のリバーの局面でコールしてしまったのか…?あとから振り返って、コールした理由を無理やり考えていたことはないでしょうか。
今回はそのようなシチュエーションでどのような行動経済学上の力学が働いたのかを考察し、テキサスホールデムのプレイハンド例を紹介しながら解説していきたいと思います。ポーカー用語はnote最後に解説しています。
<ハンドの紹介>
テーブル:2-5ドル ノーリミットホールデム ※レーキ無し(説明のため省略)
スタック
自分:2,000ドル
ハンド
自分のハンド:K♠ 9♠
相手のハンド:??? (相手のハンドを推測しながらアクションをご確認ください)
ポジション
自分:スモールブラインド
アクション(プリフロップ)
カットオフまで全員フォールド
相手 20ドルにレイズ
自分 20ドルコール
ビックブラインドはフォールド
相手と自分だけでタイマン勝負(ヘッズアップ)
フロップ(ポットサイズ:45ドル)
K♦ J♠ 3♠
アクション(フロップ)
自分 チェック
相手 ベット 30ドル
自分 コール
ターン(ポットサイズ:105ドル)
K♦ J♠ 3♠ Q♠
アクション(ターン)
自分 チェック
相手 ベット 50ドル
自分 チェックレイズ 150ドル
相手 コール 150ドル
リバー(ポットサイズ:405ドル)
K♦ J♠ 3♠ Q♠ K♥
アクション(リバー)
自分 ベット 250ドル
相手 レイズ 800ドル
自分 オールイン 1,550ドル
相手 コール 1,550ドル
相手 A♠ 10♠をオープンし勝利
自分もK♠ 9♠ でKのフラッシュが完成しているのですが、相手のハンドは自分より強いフラッシュを完成させたたため、自分のチップは全てとられてしまいました。
ここでクイズです。
<クイズ>
自分の心理状態がどれに当てはまっているか、以下の4択から選んでください。
〔4択〕
①諦めたらそこで試合終了の精神に則って最後まで勝負する
②相手の顔が気に入らず負けたくない
③自分のハンドが勝っていると過信している
④相手がブラフする時の癖を見抜いてブラフだと確信している
ここでは正解は③です。
この回答ですが、実は人間の行動経済学に基づいている点があります。
③の自分のハンドがかっていると過信してしまうことは行動経済学上では、「自信過剰バイアス」といいます。
今回の自分のハンドはなかなか強いハンドではありますが、リバー時点で想定できる最強のハンド(ここでは「KQ」が最強ハンド)ではありません。実際、ボードにはペアアップもありますので、フルハウスの可能性もありますし、相手が自分より高いフラッシュの可能性もあります。
それにもかかわらず自分のハンドが強いんだと思い込んでしまったゆえにリバーレイズに対してオールインをしてしまい大きなポットを失うことになりました。
KHighのフラッシュは強いハンドではありますが、「自分のハンドは強いんだ」と思ってしまい状況を正しく分析できなかったことがこのプレイでの敗因につながったのだと思います。自分のハンドを過大評価せずに客観的に俯瞰してみることで、過信せずにハンドの強さを分析できます。
勿論相手がブラフをしている可能性もありますが、自分のハンドを過大評価してしまうことの方が、自分がコントロールできる範囲(相手のブラフは自分ではコントールできない領域)なので、自分のハンドを過信することを避けるのがポーカー戦略上では重要です。
なお、④の選択肢ですが、ポーカーの世界では実際に「テル」を見抜くという相手のプレイ中の癖やしぐさなどからブラフしているのかどうかを判別する方法がありますが、これはプロ中のプロが多くの経験を通じて身に着ける技術となります。
ケース②
では、次のハンドの例も見ていきましょう。
スタック
自分:2,000ドル
ハンド
自分のハンド:6♠ 6♥
相手のハンド:??? (相手のハンドを推測しながらアクションをご確認ください)
ポジション
自分:スモールブラインド
アクション(プリフロップ)
アンダーザガン 20ドルにレイズ
ミドルポジション 3ベット 60ドル
ボタンまで全員フォールド
スモールブラインド(自分) コール 60ドル
ビックブラインドはフォールド
アンダーザガン 4ベット 160ドル
ミドルポジション コール 160ドル
スモールブライド(自分) コール 160ドル
フロップ(ポットサイズ:490ドル)
2♣8♦9♦
アクション(フロップ)
スモールブラインド(自分) チェック
アンダーザガン ベット 200ドル
ミドルポジション フォールド
スモールブライド(自分) コール 200ドル
ターン(ポットサイズ:890ドル)
2♣8♦9♦ 2♥
アクション(ターン)
スモールブラインド(自分) チェック
アンダーザガン(相手) ベット 500ドル
スモールブライド(自分) コール 500ドル
リバー(ポットサイズ:1,890ドル)
2♣8♦9♦2♥ A♠
アクション(リバー)
スモールブラインド(自分) チェック
アンダーザガン(相手) オールイン 1140ドル
スモールブライド(自分) コール 1140ドル
相手 Q♥Q♦をオープンし勝利
最後までチェックコールを貫き通しましたが、相手のオーバーペアに負けてしまいました。この時の自分の心理状況について、改めて行動経済学に照らし合わせて解説していたい思います。
またひとつクイズです。
<クイズ>
リバーでコールしたときの心理状況に当てはまるものはどれでしょうか。
〔4択〕
①ターンまで多額をベットしているためリバーでフォールドしてこれらを失いたくない
②折角のポケットペア※のハンドだから最後まで戦いたい
③リバーのオールインはブラフであることが多く今回もブラフだと思う
④相手が自分より大きなポケットペアを持っているなんてあり得ない
ここでは、正解は①になります。
今回のケースを導いてしまった要因を人間の行動経済で説明すると「サンクコストバイアス」といいます。今までに投じてきた費用をもったいないと感じることが、意思決定に悪影響を及ぼす現象が生じます。
「コンコルド効果」と呼ばれ、例えば投資の継続が損失の拡大につながると分かっていても、それまでに費やした労力やお金、時間などを惜しんで投資がやめられない心理現象を指します。
今回リバーでもAが落ちていて、リバーでペアが完成している可能性もあり、またプリフロップでも4ベットポットまでいっているポットになるので、相手が自分より大きなポケットペアを持っている可能性もあり、ターンまでのコールは良いのかもしれないですが、リバーの相手のオールインに対しては、これまで投資(ベット)してきた金額を気にせずにフォールドするのが正しい選択であったと言えます。
人間はサンクコストバイアスを持っていることを理解した上で、初期から投資を無駄に重ねずに早めにフォールドすることも戦略といえますし、この場合ではフロップでセットがヒットしなかったので、その時点でフォールドする選択肢もあったと思います。(もし私がプレーしていたらフロップでチェックレイズして相手のアクションを見ていたと思います。)
ケース③
最後に実際に海外のカジノで実際にあった私のハンドを行動経済学の解説を交えてご紹介したいと思います。
スタック
自分:1,000ドル
ハンド
自分のハンド: 9♦9♠
相手のハンド:??? (相手のハンドを推測しながらアクションをご確認ください)
ポジション
自分:カットオフ
アクション(プリフロップ)
カットオフ(自分) レイズ 30ドル
ボタン、スモールブラインド フォールド
ビックブラインド(相手:2000ドル) 3ベット 120ドル
カットオフ(自分) コール 120ドル
フロップ(ポットサイズ:242ドル)
A♥4♠5♦
アクション(フロップ)
ビックブラインド(相手) ベット 100ドル
カットオフ(自分) コール 100ドル
ターン(ポットサイズ:442ドル)
A♥4♠5♦ 4♣
アクション(ターン)
ビックブラインド(相手) ベット 160ドル
カットオフ(自分) コール 160ドル
リバー(ポットサイズ:762 ドル)
A♥4♠5♦4♣ 9♥
アクション(リバー)
ビックブラインド(相手) ベット 120ドル
カットオフ(自分) オールイン 620ドル
ビックブラインド(相手) フォールド
自分が勝利
ここでクイズです。
<クイズ>
相手のハンドはどんなハンドだったかを推測してください。
〔4択〕
① A♦4♦
② 5♣5♠
③ A♦K♦
④ K♠K♦
おそらく3ベットが生じていたので③が濃厚かと思いますが、正解は①でした。
ターンでフルハウスが完成していましたが、リバーのオールインにはコールしませんでした。これはとても慎重な判断で結果としてナイスプレイではありますが、この行動には人間の行動経済学で説明できる部分があります。
人間は「得」をするよりも「損失」の方を大きく評価する「損失回避バイアス」が働いていることがあります。今回のケースでは、リバーをコールすることによってオールイン分のチップも獲得できる「得」よりも、相手が自分より強いフルハウスを持っていること(この場合は、AA、A5、55、99があり得る)にリスクを感じ負けた場合の「損失」を回避したいという意識が生じ、フォールドしてしまったことになります。
相手の手が読めない以上、ある程度相手の出方を予測した上で勝負するのがポーカーというゲームの醍醐味ですが、毎回この損失を意識してしまうと勝てるハンドも勝てなくなるリスクがありますので、損失を過敏に意識せずにある程度のリスクを持ってプレイすることが勝率アップにつながるのではないかと考えます。
おわりに
さて、ここまではいかがでしたでしょうか。
今回はポーカーのプレイシーンを通じて行動経済学げ語られるバイアスや心理について紹介しました。
一見冷静に判断しているようにみえても、私たちの意思決定には常にバイアスが働いていることがわかります。
こういった思考の癖を知ることで、一時の感情に左右されず冷静に判断し、ビジネスの成功や、自身の夢の実現などのへの道を切り開く手助けとなるはずです。
ぜひ、このnoteをきっかけに、マインドスポーツの面白さや行動経済学の理論に興味をもつきっかけになれば嬉しいです。ポーカーも、自分の人生もオールインで楽しみましょう!
その他にも、セガ エックスディーでは、行動経済学の理論でトレンドや事象を解説しているnoteもありますので、ぜひご覧ください。最後まで読んでいただきありがとうございました!
用語説明
リバー:5枚目のコミュニティーカード(みんなが見えるカード)のこと
レーキ:運営側(カジノやアミューズメント施設)のディーラーが各ハンドごとに徴収する手数料のことで場所代のようなもの(これが運営側の収益)
ボタン:アクションの順番を示すディーラーと書いてあるボタンのことです。毎ハンド時計回りに移動します。ボタンの位置にいるプレイヤーは他のプレイヤーがアクションをした後にアクションをすることができるため有利なポジションとなります。
カットオフ:ボタンの手前のポジションでアクションはボタンの前(ボタンの次に有利なポジション)
ポケットペア:最初に配られる2枚が同じ数字(あるいはアルファベット)のペアのこと
執筆:山東秀敬|株式会社セガ エックスディー
ゲーム会社にて様々なプラットフォームにおけるゲーム開発及び運用経験を経て、その後ツール系アプリのプロダクトマネージャーとして活躍。ゲーム開発や運用だけではなくマーケティング領域での業務経験も豊富。2022年株式会社セガ エックスディーに入社。プロジェクトマネージャーとして複数のプロジェクトを同時に担当しつつコンサルティング領域の役割も担い、数多くのクライアント様の課題解決に貢献している。
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