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ボードゲームを作りながら考えた、障がい者雇用と多様性ある社会に向けてエンタテインメントが世の中に出来ること

当社では先日、障がい者雇用における課題や悩みを解決するための社内研修用ボードゲーム『ズバリ 気配り アニマッチ』を東京都ビジネスサービス株式会社と共同開発しました。

またこちらの取り組みは、障がい者雇用はもちろん、SDGsの文脈でも注目いただき、以下のようなメディアにも取材いただきました。

取材いただいたメディアの皆さま、ありがとうございました!

当プロジェクトに取り組む中で、企業としてSDGsや社会課題に取り組むにあたっての様々なヒントを得ることが出来ました。
この記事では、『ズバリ 気配り アニマッチ』の開発を担当したセガ エックスディーの野尻が、ゲーム開発のキーポイントや、SDGsに関する学びについて書きたいと思います。


障がい者雇用×ボードゲーム 一見難しいテーマへの取り掛かり方


今回の取り組みは、企業向けに障がい者受け入れに関する研修を提供する東京都ビジネスサービスから「研修にボードゲームを導入したい」というご相談をいただいたところから始まりました。

面白いテーマではありますが、同時に非常に抽象的でもあります。
テーマが抽象的でどこから取り組んでいいかわからない時の企画者あるあるで、「とりあえずブレーンストーミングをする」というのがあるのですが、ここでいきなり「ボードゲーム案」のアイデア出しを始めてはいけないと考えました。

研修をデザインするとき、まず考えないといけないことは「受講者に何を学んでほしいのか」だと思います。
実は、ゲームの企画も似ていて、ゲームデザインではまず「プレイヤーにどんな体験をしてほしいのか」と考えます。

まずはこれらについて明確に定義することから着手しました。
障がい・障害者雇用の関連資料を読み込み、ディスカッションを重ねるなかで、私たちはひとつの大きな気づきを得ました。それは、障がい者の受け入れにあたって、型にはまった正解なんてものはないということです。

当然のことですが、受け入れる相手は、それぞれの人生と個性のあるイチ個人です。障がい特性によって傾向や配慮すべき事項はありますが、「この人はASDだからこうすればいい」という風に一律に対応が決められるはずがありません。

相手が健常者でも障がい者でも、個人に向き合うことの大切さは言うまでもありませんが、はじめて障がい者の方を職場に迎え入れるとなれば、ことさら研修の場では端的な‟正解”を求めてしまいがちです。

思い込みで対応を決めたり、過剰に気遣って腫れ物に触るような一方的な対応をするのではなく、ちゃんと話を聞き、思いやり、その人に合った適切な配慮をすることを、専門用語で「合理的配慮」と呼びます。研修では、ゲームを通じてこの考え方を学んでもらおうと決めました。

すると、自然と与えるべきゲーム体験の方向性も見えてきました。相手の話をちゃんと聞いて、思いやることでものごとが上手くいき、みんなでその喜びをわかちあえる。そんな体験が作れるとよさそうだと思いました。

『ズバリ気配りアニマッチ』製作における3つのキーポイント

ポイント① 「覚える」のではなく「体験する」

学習用・研修用のボードゲームと言われて、どんなものを思い浮かべるでしょうか。
最もベタなのは「○○カルタ」のようなもので、ゲームに専門用語を組み込むようなデザインです。
群馬県民の必修科目として有名な「上毛かるた」のように、知識の暗記を目的とする場合には、これも良い手段だと思います。かるたを使えば、退屈な暗記に競争の要素をいれることでモチベーションアップが図れます。

ただ、今回製作するゲームの目的は、ユーザーに「合理的配慮」の概念を「体験させる」ことでした。
研修の視点だと、はじめての概念を学習するには、知識としてではなく、体験から学ぶ方が、より深い理解に繋がると考えます。
さらに、ゲーム体験としても「相手の話をちゃんと聞いて、思いやることでものごとが上手くいき、みんなでその喜びをわかちあえる」ことを目標としています。
ゲームシステムを構築していくなかでは、「知識に頼って決めつけるのではなく、個人に向き合って柔軟な対応をする(合理的配慮)」をいかに楽しく体感できるかを焦点に開発しました。

ポイント② “ちゃんと楽しい”ゲームを作る

具体的なルールを組み立てていくにあたって、以下のようなことを考えました。

  • 合理的配慮ができればよい結果になって、できないとわるい結果になるようにする。そして、その成否を「ヒアリング」が握るようなデザインにする。

合理的配慮のためには、丁寧に話を聞くことが必要不可欠です。ヒアリングを適切に行うことが、ゲームの結果に大きく影響するようなデザインにしました。

  • 障がい者雇用は、誰かひとりの担当者ではなく、チームで受け入れる姿勢が大切。ゲームも、メンバー内での対戦じゃなくて協力ゲームとする。

ボードゲームといって思い浮かべるものには対戦ゲームが多いと思いますが、意外と、協力系のゲームもたくさんあります。『パンデミック』や『ザ・マインド』などは有名で、実際に私もチームメンバーと一緒に改めてプレイしました。チームビルディングの観点からも、研修用のゲームには協力ゲームは向いているのではないかと思います。

  • 参加者みんなが楽しめるようなゲームにする

プレイヤーによって、得意な頭の使い方や、ボードゲームへの慣れ・不慣れも違います。そこで、感性に基づいて連想・推理するアプローチと、論理に基づいて理詰めで解を求めるアプローチの両方ができるようなルールとしました。
最初はかなり論理ゲームの性質に偏っていましたが、テストプレイをする中で課題に気づき、より懐の広いゲームになりました。
ゲーム作りの基本ではありますが、細かなテストプレイを重ねることは、何より重要です!
なんなら、一番はじめの試作段階では、何一つ面白くない駄作オブ駄作が爆誕していましたが、形にしたことでそこから課題がどんどん可視化され、ブラッシュアップされていきました。

これから初めてゲームを作ろうという方にむけてアドバイスをするならただ1ついきなり面白いゲームをつくろうとすると行き詰ってしまうので、さっと第一版をつくってしまいましょう(今回はコロナ禍もあり、我々はmiroというホワイトボードツールを活用しました)。

上記を意識してブラッシュアップを繰り返した結果、参加者がそれぞれ自分の強みを活かしながら、活発にコミュニケーションをして盛り上がれるゲームになりました。結果的に、チームビルディングにも非常に良いと評判な一石二鳥のゲームに仕上がりました。

ポイント③ ビジュアル・ディテールにもこだわる!

ゲームづくりにおいて、ビジュアルや世界観はディテールにいたるまで外せない要素です。没入感にも関わるし、「人にお勧めしたい!」とか、「もう一度遊びたい!」と思ってもらうには、細部での好感の積み重ねが大事になります。

私としては合理的配慮という概念は、障がい者雇用の担当者に限らず、多様性という観点からより多くの方に知ってもらいたい内容に感じました。教育機関など、より多くの場所で広く遊んでもらいたいという想いから、老若男女に受け入れられるような可愛い動物たちをモチーフに、ほどよいファンタジー感のあるデザインにしました。

ゲームの世界観は、以下のようなものになります。

『ズバリ 気配り アニマッチ』の説明書より抜粋

「仕事」というモチーフは用いつつ、企業だけでなく学校などあらゆる組織で遊んでもらいやすいように、誰もが親しみやすい「生徒会」を舞台にしました。

ちなみに、超余談ですが…「クオッカ」という動物をご存じですか?
クオッカは「世界一幸せな動物」として有名な、とても可愛いオーストラリアの生き物です。「世界一幸せな生徒会」を目指すのが目標!ということで、クオッカを生徒会長に据えています。

ゲーム内で一人一役割り当てられるキャラクターにも、細かなプロフィールが用意されています。
・衝動買いの癖がお茶目な、どこかおじさんくさい雰囲気の「イヌヤマ」
・休日にはボランティア活動にいそしむ、ちょっと心配性な「オリビニャ」
など、みんな愛嬌たっぷりです。

この詳細設定は、東京都ビジネスサービスの現場で障がい者支援に携わる皆様と綿密に議論を重ねて作成しました。
ゲーム内では明言しないのですが、それぞれ裏設定として「ADHD」や「双極性障害」などの障がい特性をイメージしたキャラクターとなっています。研修では講師の方から各キャラクターの特性について解説してもらうことで、参加者がより理解を深められるようになっています。

「SDGs対策」なんかではなく、個別の課題に寄り添う


SDGsは、非常に多くの企業が掲げる重要なテーマとなっています。
17の目標はどれも非常にスケールが大きく、企業として向かい合うからにはそのスケールの大きさに劣らない、包括的な取り組みをしないといけない気持ちになりがちです。
私たちは今回、「SDGsに取組もう」というお題目から出発したわけではないですが、結果的にはSDGsにおける「8.働きがいも経済成長も」「10.人や国の不平等をなくそう」に関わる取り組みになりました。

実際に取組んで実感したのですが、(当たり前のことではあるのですが)SDGsの17の目標の達成のために、解決すべき課題は無限にあるように思います。それらをまとめて解決する手段なんて到底ない。
でもむしろ、今回の取り組みを通じて、その遠大な目標にとってはごくごく小さな一歩であることを直視することにおびえず、狭くて小さな課題でも深く確実に解決しようとする姿勢こそが大事なんじゃないかなと感じました。

セガ エックスディーとしての成果は、その課題解決の手段として、エンタテインメントは確実に機能するということを実感できたことだと思っています。これからもエンタテインメントやゲーミフィケーションを通して、楽しく課題を解決していきます!お手伝いできる取り組みがあれば、ぜひお気軽にお声がけください。



執筆:野尻 昌仁|株式会社セガ エックスディー

コンサルティング業界で新規事業開発・ジョイントベンチャーの立ち上げなどを経験。現在はセガ エックスディーでプロダクトマネージャーとして、社会課題を解決するスマートフォンアプリやカードゲームを製作。

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