【ウェビナーレポート】奥谷孝司氏登壇『DXを成功に導く方程式 ~組織を動かし、顧客中心でビジネスを成功させる方法~』(2021.10.13 実施)
こちらの記事は、SEGA XDのアドバイザー 奥谷孝司氏が、2021年10月13日実施のウェビナー『 DXを成功に導く方程式 ~組織を動かし、顧客中心でビジネスを成功させる方法~ 』へ登壇した際の実施レポートであり、ユナイテッド株式会社のオウンドメディア『 UNITED DX 』掲載記事の転載になります。( https://dx.united.jp/archives/2425 )
消費者が暮らす日常は、今やデジタルとリアルが融合し、リテールや消費財企業の従来のサービスでは消費者の期待を満たしづらくなってきています。B2C領域のマーケターは、現在の消費者の生活やニーズを、改めて理解し直さねばならないという課題感をお持ちの方も多いのではないでしょうか。また、この大きなDXのうねりのなかで、経営者は「消費者ニーズの捉えなおし」をマーケティング部門任せにせず、事業戦略、経営戦略の礎として捉え、腰を据えて向き合う必要があります。
消費者に寄り添いヒット商品やデジタルサービスを生み出している奥谷 孝司氏をお招きし、顧客中心で考え、組織を動かすことにより、ビジネスを成功させる方法について伺いました。
DX推進と成功の要諦
奥谷孝司(以下、奥谷):本日はDXを成功に導くためにやらなければいけないことを、経営の視点とアカデミックな視点を交えてお話しします。
コロナ禍によってアメリカの小売業はDXが進んでいますが、日本では未だに顧客に対する優れたデジタル体験提供が小売業において不十分なように思います。日本には、店頭においてテクノロジーを嫌う文化が根強く残っており、これがDXの進まない要因の一つです。そこで私は、DXを成功に導く方程式を以下の通り提唱しています。
DXを成功に導く方程式
Digital Transformation = [E(employees) x C(customers)] x Experience
真のDXを成功させるには、顧客と従業員の体験がデジタルによってつながっていくことが必要です。マーケターはCX(customer experience:顧客体験)に重点を置きがちですが、店舗を持つ小売業では、EX(employee experience:従業員体験)も大事にしていかなければなりません。なぜなら、従業員が顧客にサービスを提供するわけですから。
これは実はアカデミックでも主張されていることです。顧客はあらゆるデジタル技術を使った上でお店に来ます。顧客に接する従業員は、デジタルに触れる必要がありますし、使いこなす必要があります。従業員がデジタルを活用することに対して、評価指標やインセンティブもつなげていくというくらいの対策を行うべきだと思います。店頭での従業員と顧客の接点をデジタルデータとして補足して初めて、優れたデータ蓄積や分析ができるようになります。
DXを推進できる組織とは
CX、EXを実現しながら経営を進めていくには、顧客中心主義でなければなりません。そのために組織を縦割りにするのではなく、横串を通すことが必要であると思います。具体的には、コールセンターやIT部門がマーケティング部門の中に存在することで顧客とのつながりを得られ、良いマーケティングや製品開発がなされていきます。
顧客中心主義の組織ととして弊社顧客時間が提唱しているのが、「カスタマーサクセス室CXO(最高顧客体験責任者)の設置です。
「カスタマーサクセス」という言葉はB2Bには当たり前に存在しますが、B2Cの業界にはそのような考え方は少なく、選ばれて買ってもらって終わり、というところで止まっています。顧客とデジタル技術を使ってつながっていくには、買い物後の顧客体験、買い物を通して顧客の生活体験をよりよくしていくことが重要です。そのための組織体制として、私が最適だと思っているのは、オムニチャネル事業部やDX推進本部を置くよりも、カスタマーサクセス本部を置いたほうが良いと考えます。カスタマーサクセスを実現するために、デジタルを活用していくという考え方を広めていくことで、デジタル嫌いの人々にも受け入れられると思います。
マーケティングとテクノロジーの融合
事業システムを機能させるにはデジタルな側面だけでなくアナログなコミュニケーションも含めて企業の文化や精神を変えていく必要があります。
顧客中心主義だと言う企業は多くありますが、実際に行っていることといえば、定期的な顧客調査をし、顧客の意見を反映したサービス改善や商品開発を実施しているだけだったりします。そのレベルでは顧客中心主義とは言えません。デジタル技術があれば24時間365日顧客とつながることができます。顧客の生活時間を中心に据えたうえで、われわれ企業は顧客にどのような価値を提供しているのか、それがどのように使われているのかを通して顧客を理解していく必要があります。顧客戦略をまだ持っていない企業も多くあります。真のDXをするということは顧客戦略を作っていくということでもあります。顧客戦略を作ることができれば、それがやりやすい組織へと変えていくことになるはずです。事業目的や事業組織をより顧客中心主義に変えていく、それが真のDXであると思います。
ところで、われわれ企業はDX以前にやるべきことも多くあります。小売業であれば毎週のように顧客と接する機会があり、ここに対してどれほど顧客の共感を得られるかを考える必要があります。企業に対する顧客の共感を可視化するためにデジタルが存在すると思っています。
顧客とのつながりを考えるのに役立つフレームワークを紹介します。例として「スーパーマーケットの価値」を創造しながら話しましょう。
機能価値:品揃えの豊かなスーパーを経営しているということは顧客満足に繋がります。このような顧客価値はスーパーの「機能価値」といえます。顧客価値の最も根幹となる価値であり、これがなくては顧客満足はうまれないでしょう。
体験価値:さらにそこにネットストアやデリバリーといったサービスの充実、接客応対の向上を提供することで顧客体験が良くなります。このような顧客価値は「体験価値」といえるでしょう。このような体験価値がNPSへと繋がっていくように思います。
つながっていることの価値:これら2つの価値を踏まえて、顧客がこの企業と繋がり続けたいと思えるかどうかが最も重要になってきます。この考え方の重要性が分かっていても、実際にどうすればいいかわからないという企業は多いと思います。
これを実現するためにはマーケティングの発想方法も変えていくべきです。マーケティングを今までのフロー型(顧客起点発想)からリテンション型(顧客基点発想)に変えていく必要があります。
これまでのマーケティングは、良い商品を良い価格で良いマーケティングをして市場へと送り出していくという流れになっています。マーケティングの4Pで考えてみるとこれは商品に由来する金額設定やプロモーションを、組み合わせて販路(Place)への流し込むだけ異質なものとなっています。ではデジタルが進んだからといって変わったのは売る場所がECになり、プロモーションがデジタルになっただけとなっています。このような流れであると顧客とのつながりを強くすることはできません。
企業としての提供価値(Engagement)と、その理由(Engagement reason)を持った上で、顧客の状況をデジタルで把握し、顧客を理解します。そして、その情報を商品や価格、プロモーションに反映していきます。このサイクルを回すには、デジタルIDが必須です。IDでデータが一元化されていれば、顧客関係マネジメントも回っていくこととなります。顧客のいる場所からマーケティングを考えていく時代であり、それにはDXが必要不可欠なのです。
DX推進の事例紹介
~ 顧客中心でビジネスを成功させる、注目すべきデジタルサービス事例 ~
関彩(以下、関):事例紹介に入る前に、マーケティングの進化の過程をたどってみましょう。コトラーの提唱してるマーケティング理論は、製品主導のマーケティングから顧客中心のマーケティング2.0に変化していきました。さらに人間中心のマーケティング3.0に進化して、4年ほど前にマーケティング4.0、そして最近新たな書籍も発売されました。マーケティング4.0/5.0では、マーケティングが人間中心であることは変わらず、そこに新しい顧客の潜在ニーズを考えていくというものになっています。これから先の世界ではサステナビリティが重視され、誰かの犠牲の上でマーケティングを成り立たせることはできなくなってきています。
今回は、人間中心のマーケティング4.0や5.0に当てはまると思われる事例を紹介していきます。
Product x ブロックチェーン
スイスを拠点とするfarmer connect SAは、2021年10月にトレーサビリティサービスを日本で開始しました。『thank my farmer』というアプリで、飲むコーヒーのや豆のパッケージに記載されているQRコードを読み込み、生産や輸送のルートを確認できます。今までコーヒーメーカーは顧客にアンケートを取るなど、商品とは別にブランドエンゲージメントなどの調査をしてマーケティングを行ってきました。しかし、これからは一杯のコーヒーから生産者、販売者、消費者をつなげて対話をしていくように進化しています。このアプリを制作した farmer connectのCEOはテクノロジーによって消費に人間味を与えることをヴィジョンとしており、まさに人間中心のマーケティングを突き詰めた形になっています。
この会社は、日本でのローカライズ版を制作するにあたって日本のコーヒー愛好家の好みを調査し、新たに3つの新機能を搭載しました。市場の人々を調査し理解した上で、それぞれに合った製品を作り顧客と対話をするようなマーケティングを行っています。
Price x webスクレイピング
とある料亭が新たにECサイトを始めた事例をご紹介します。調べるうちに、この料亭のターゲットユーザーは、「合理的な価格で商品を買いたい」というニーズを強く持っていることが分かりました。価格設定の手法にはさまざまありますが、今回新たな方法として「webスクレイピング」を行いました。これはwebサイトに載っている多くの商品情報をデータとして回収するプログラムで、これにより顧客に喜ばれる価格を決めることができます。なんとなく競合を一社決め、そこに対して競争力のある価格設定を行ったとしても、顧客は自分で調べて他に良いものを見つける可能性があります。そのため実際に顧客が商品にたどり着くまでの動きを想定し、その上で価格設定を行うことでより良いマーケティングにつながっていきます。
Place x VR
スマートフォン向け仮想都市空間プラットフォーム「REV WORLDS(レヴワールズ)」をご紹介します。このサービスは三越伊勢丹が運営する仮想都市プラットフォームサービスで、ユーザーはこの中を散策し、実際の店舗にいるような感覚で商品を見て回り購入することができます。バーチャルになることで営業時間や移動距離に縛られることなく買い物ができ、普段会えない祖父母と世代を超えてバーチャルで一緒に買い物をすることで、より人間味のある顧客体験を提供することができます。「デジタルは効率化」「リアルは人間味」というように切り離すのではなく、新たにリアルの世界とバーチャルの世界が融合した価値観を持ってマーケティングを行っていくことでマーケティングの幅も広がっていきます。
Promotion x CDP
P&Gは2013年というデータ利用の最初期から顧客データを統合し、プロモーションに活かす体制を構築しました。そこからプロダクトやマーケティングをデジタル技術を利用しながら、顧客それぞれに対してone to oneの体験を提供しています。2019年に初めてCESに出展したことでも話題になりましたね。
視聴者の皆様からの質問
関:ここからは質疑応答に移らせていただきたいと思います。早速ですが一つ目の質問です。
ー 顧客視点でのDXを進めていくうえで、社内の人たちを納得させる方法などありますか。
奥谷:顧客とつながることを意識するならば新しいKPIを持つことを提案するのが良いのではないでしょうか。売り上げや利益のみを指標とするのではなく顧客とのつながりを指標としなければ、今までの大量生産による小売りから抜け出せなくなってしまいます。今までの量の経営に対して質の経営を取り入れるには、その場での利益や売り上げを求めるのではなく、顧客のために行うことであると伝えて全社で取り組んで進めていくことが大切だと思います。
関:そうですね、このように全社で進めていくには経営陣での合意形成も必要となってきますね。
奥谷:さまざまな部署の執行役員が集まった際に、デジタルがわかっていないと突っぱねるのではなく意見を言ってもらって、参加している感覚を全体で持っていくことが大事だと思います。デジタルをわかっている人だけが進めているものになってしまうと危ういので、同時にそのような場でもLTV(Life Time Value)の重要性を話していきたいですね。
関:関連する質問が来ています。
ー 最新のデジタルトレンドやDXに関心が薄い人たちがいる場合、どのように進めていけば良いのでしょうか。
奥谷:ここもやはり想像力が必要になってくるように思います。経営陣やその他の方々がわくわくするような新たな企画や販売の方法を例示し、それを達成するためには手段としてのデジタルが必要ですというようにお話しすると良いように思います。百貨店における北海道展などで商品を集めてくるバイヤーをもっと表に出して、バイヤー個人に顧客とのつながりを作っていく。そのためにはバイヤーとよりつながれるチャット機能や情報がまとまったサイトなどが必要となりますね。というように手段としてのデジタルで話を進めていけると良いのではないでしょうか。顧客とよりつながるようなものを一緒に考えていく中で、デジタルをわかっている人が企画を不便なく進められるようなツールを紹介していくという形が良いと思います。
関:経営陣や上司に対しての説得の方法に続き、次は現場の方々の巻き込み方に関する質問です。
ー 現場に対する進め方などどのようにしていくのでしょうか。
奥谷:最初に根本的な評価制度を変えていく必要があるように思います。店舗の人がネットで商品を売った時に適切に評価するという形を作っていくべきだと思います。加えて、デジタルツールをいち早く店舗の人たちに提供してフィードバックをもらってより良いものにしていく。いち早くデータが欲しいのは経営層ではなく店舗の人たちです。どのようなサービスをすると顧客満足度が上がっていくというのを即座に知っていく必要があります。もっと上流から考えると、開発プロセスから店舗の人を入れることが重要であるように思います。デジタルのことをデジタルの人だけがするのではなく、デジタルをよく知らない人たちも開発に入れて進めていくことで、現場に即した良いものができると思います。
関:実際に使う、広めていくのは現場の人たちであるので、その人たちが使いやすいものをつくっていくことは大事ですよね。
次の質問です。
ー 顧客との体験価値を高めるようとすると顧客一人当たりにかかるコストがかさんでしまい利益が上がらくなるというジレンマが生じてしまいます。こちらの問題にはどのように取り組んでいくべきでしょうか。
奥谷:やはりそこも同じようにKPIを変えていくことが重要ではないかと思います。今までの店舗経営に最適化された環境で、今まで通りのことをやっているほうがコスパは良いですが、新しいことをやっていくにはコストがかかるのは仕方ないと思います。一人の顧客にお金をかけることで、今まで得られなかった知識や今後の方針となる重要なインサイトが見つかるのではないでしょうか。同時にデジタルの導入をすることで、店舗がある企業であれば従業員の業務効率も格段に上がっていくと思います。顧客体験(CX)への寄与とリターンにはまだ時間がかかるかもしれませんが、従業員体験(EX)にもつながっていきwinwinになるのではないでしょうか。
関:まさにその通りですね。基本的にマーケティングをレベルアップするための投資であればそのROIを短期的に測るのは難しいと思います。新しいマーケティングができるようになるには長期的に見ていく必要があると思うので、現在DXを進めている経営陣の方はそこを考えて事業を進めているのだと思います。
奥谷:デジタルは理論上何でもできますが、時間をかけないとできないことがあります。しっかりとロードマップをつくって経営陣に説明する必要があります。段階を踏んでやっていかなければコストに見合う結果が得られないということにもなりかねません。必要なスペックを考えながら進めていくべきです。同時に組織体制としても、カスタマーサクセス会議などを開いて進捗を説明していくことが重要です。加えて現場の方たちにDX研修をするとしても、DXに関する難しい知識を教えるのではなく、日常業務がどれだけ効率よくできるかや、どれだけ顧客により良い体験ができるかなどを考える研修が良いと思います。
関:こう考えるとやるべきことがたくさんあり、どこから進めていけば良いかわからないという方もいらっしゃると思うので、ぜひ奥谷さんや弊社にご相談いただければと思います。本日はご登壇ありがとうございました。
<転載元>
ユナイテッド株式会社 UNITED DX
『 DXを成功に導く方程式 ~組織を動かし、顧客中心でビジネスを成功させる方法~ 』
URL:https://dx.united.jp/archives/2425