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「リバースロジスティクス」をゲーミフィケーションの観点で考察してみた

こんにちは!セガ エックスディー プランナーの金谷です。

今回は、近年重要性が高まっている「リバースロジスティクス」について紹介します。記事の後半ではゲーミフィケーションの観点で、この問題にアプローチしていきます。ぜひ最後までご覧ください。

■ この記事で分かること

  • リバースロジスティクスとは

  • リバースロジスティクスを構築するメリットと問題点

  • ゲーミフィケーションをリバースロジスティクスに活用してみるとどうなるのか 



■ リバースロジスティクスとは

リバースロジスティクス(静脈物流)は、「顧客側から生産者側へと流れる物流」を指す言葉です。
具体例としては以下のようなものが挙げられます。
●     顧客からの返品対応
●     不良品の回収
●     故障品の修理
●     廃棄物の廃棄・再利用

つまり、生産者側から顧客側へと商品を供給する通常のロジスティクス(動脈物流)の反対(リバース)というわけですね。

近年リバースロジスティクスが注目される理由は大きく分けて2つあります。

1つ目は、EC市場の拡大です。リバースロジスティクスの代表的な用途は顧客から生産者への返品対応です。EC市場が活況を呈する現代において、不良品をはじめとした返品は珍しいことではありません。スムーズに返品できる体制を整えておくことは、顧客ロイヤリティの向上に繋がりますし、購入ハードルが下がることにより販売機会の増加にも寄与すると言われています。

2つ目は、SDGsなどの環境配慮トレンドです。適切な返品が行われると、製品をそのまま再利用するなど、原材料やパーツだけでももう一度使うことが可能になります。廃棄品の回収も同様にリサイクルに繋がります。修理のための物流網が充実していれば、一つの製品を長く使えるという点でこれも環境配慮に貢献すると言えるでしょう。このように、リバースロジスティクスの整備は近年の環境トレンドともマッチしており、顧客・生産者(事業者)双方にメリットのある仕組みと言えそうです。

では、リバースロジスティクスを構築することにより事業者側にはどのようなメリットや問題点があるのでしょうか。
ここからは、事業者が導入するための方法を探っていきたいと思います。

 

■ リバースロジスティクスを構築するメリット

① 顧客ロイヤリティの向上

顧客に寄り添ったリバースロジスティクスを構築できるか否かは、顧客ロイヤリティに影響します。返品や回収が発生している時点で顧客は一定のストレスや不満を抱えているはずです。そこで返品等に大きな手間がかかってしまうと、一気に顧客ロイヤリティを下げてしまう可能性があります。
一方で、スムーズな返品や回収の体制が整っていれば、顧客ロイヤリティが向上し、購入ハードルが下がることで販売機会の増加も見込めるでしょう。

② コスト削減による利益率の改善

リバースロジスティクスの構築は、コストを抑えることにもつながります。返品や回収のフローを効率化することで、かかる送料や人件費を削減することが可能です。
また、返品等により戻ってきた製品やその原材料・部品を再利用することにより、資源を有効活用することもできると考えられます。

③ 社会的信頼の獲得

リバースロジスティクスに取り組むことで、社会的信頼を獲得できるというメリットもあります。
先述した通り、リバースロジスティクスを構築することで製品やその原材料・部品が再利用しやすくなります。修理のためのフローが確立されていれば、一つの商品を長く使うことにもつながります。こうした取り組みはSDGsに代表される昨今の環境配慮トレンドにマッチしており、企業は社会的責任を全うしていることをアピールできるでしょう。

こうしたメリットで注目されているリバースロジスティクスですが、事業者としては、どのような対応が必要となるのでしょうか。そこで、具体的な事例をご紹介します。

 

■ リバースロジスティクスの事例

回収サポートシステム(回収くん):佐川急便株式会社

リコール対応・修理品対応・通販返品対応・買取販売業務に対応しています。顧客と生産者の間にこのシステムを介することで、効率的な業務フローの構築が可能となっています。イチからシステムを構築せずとも運送大手である佐川急便の力を借りられるのは、生産者はもちろん顧客にとっても安心感があるのではないでしょうか。


アパレル・バッグ返品無料サービス:株式会社ニューバランスジャパン

服や靴といったアパレル製品は実物を確認してから購入したいというニーズが高く、ECではサイズの不一致などの理由から返品が発生しやすくなります。ニューバランス社は出荷から14日以内、室内での試着という条件付きで無料の試着・返品を受け付けています。QRコードを利用してコンビニから送ることができるのも消費者にとっては嬉しい特徴です。


 リバースロジスティクスは、「顧客から生産者へ」とされるため、BtoCのイメージが強いですが、実は必ずしもBtoCでなければならないというわけではありません。企業努力で行うSDGs観点のBtoBにおける動きもありますのでご紹介します。 

店舗で出た食品残渣(ざんさ)を堆肥化し、直営農場で活用:株式会社セブン&アイ・ホールディングス

イトーヨーカドーの店舗で発生した食品残渣から堆肥をつくり、直営農場である「セブンファーム」で活用するという施策を行っています。セブンファームで栽培された野菜はイトーヨーカドーの店舗で販売されるというサイクルになっており、「環境循環型農業」と呼ばれる体制を構築しています。食品ロスに向き合う取り組みはSDGsの観点で注目を集めています。

 

■ リバースロジスティクス構築に向けた問題点

 先述したようなさまざまなメリットがある一方で、製品を提供する事業者がリバースロジスティクスを構築する上では考慮しなければならない問題点もあります。

①予測が難しい

通常のロジスティクスでは、在庫状況や商品の配送を予測しやすく、計画的に管理することができます。一方で返品や不良品の回収はいつどこで発生するかわからないため、従来のロジスティクスのシステムだけではリバースロジスティクスをカバーしきれないという問題があります。

②コストがかかる

①で述べた通り従来のロジスティクスのシステムを応用できないため、本格的にリバースロジスティクスに対応するためには、外部の専門家やシステムを頼るための初期投資が必要になってしまいます。メリットとしてコスト削減を挙げましたが、初期投資分を回収し実際にその恩恵を受けられるまでには時間を要するでしょう。

③モラルハザードのリスク

返品が容易になると、過剰な返品をしたり製品の入れ替え・中抜きをしたりと悪質な顧客が現れるリスクが高くなります。返品を容易にすると同時に、顧客と生産者の間の秩序を保つ方法についても考える必要があります。 

この通り問題点も抱えているリバースロジスティクスですが、このような解決しにくい問題に対して効果を発揮するのが「ゲーミフィケーション」です。

 次からは「ゲーミフィケーション」の考え方を使った解決策のイメージをご説明します。

■ ゲーミフィケーションとは何か

具体的な解決策イメージの前に、ゲーミフィケーションについて断片的に捉えられている方も多いため、ゲーミフィケーションについて簡単に解説します。

ゲーミフィケーションとは、ゲームの要素(例:ポイント獲得、報酬、ランキング、レベルアップなど)を、非ゲーム領域で活用することです。楽しさや競争心を引き出すことにより、ユーザーや参加者の行動を促進することができます。

皆さんがゲームをする時、「なんか面白そう」「取りあえずやる」「気づいたらやり続けている」ということがありませんか?
ゲームにはそういった要素が意図的に組み込まれており、それを非ゲーム領域へ取り入れることがゲーミフィケーションです。

※ゲーミフィケーションについてもう少し詳しく知りたい方は、以下をご参照ください


■ ゲーミフィケーションをリバースロジスティクスに活用するとどうなるのか

ここからは、リバースロジスティクスの構築にゲーミフィケーションをどのように活かすことができるのかをご紹介します。

 まず、当社では人が持つ欲求を定義し、その欲求を刺激するためにゲームで使われている要素を整理した「ゲーミフィケーションボード(Oボード)」と呼ばれるフレームワークがあります。

今回はゲーミフィケーションボードから一部を取り上げながら、
①そもそも返品を発生させないための解決策
②廃棄物の廃棄・再利用のための解決策

の2つの方向性でリバースロジスティクスの課題解決アイデアをご紹介します。
 

①そもそも返品を発生させないための解決策

リバースロジスティクスは顧客から生産者へたくさん製品が流れればいいというものではなく、あくまでも送られるべき製品が適切に送られる体制を整えることが重要です。そのためには顧客から生産者へ製品を送る回数が過剰にならないことが必要になります。
ここでは「イマイチ気に入らなかった」「画面上で見ていたイメージと違った」といった理由の返品を減らすことに絞ってアプローチしていきます。
そこで「ゲーミフィケーションボード」から取り上げたいのは「保存欲求」と「回避欲求」の要素です。

保存欲求
人のもつ「愛着」や「一貫性欲求」が行動に及ぼす影響を活用する手法

回避欲求
「損失を回避すること」に非常に大きなモチベーションを抱く、人の特性を活用する手法

 保存欲求からは「パーソナライズ」を取り上げます。例えばECサイトのページが自身のニーズや趣味嗜好に最適化された状態になっていると、合わない商品を買ってしまう確率は低くなるでしょう。自身のステータスやサイズなどを入力した結果、アバターがウェブ上に表示され、そこでコーディネートを楽しみながら自分にあった商品を作り上げてもらい、そこに至る過程も楽しんでもらうといった体験を設けると、さらにその効果を高めることができるのではないでしょうか。パーソナライズが適切に機能すれば生産者は顧客からの信頼を獲得することができ、顧客のモラルハザードのような事態は回避できるのではないかと思います。

 回避欲求からは「保有先行」を取り上げます。人間は一度所有したものを手放したがらない傾向があると言われています。トライアル型のサブスクなどコストの低い形で製品を体験させ、その製品に納得した形で顧客が商品を購入する流れを構築できると、返品が起こる可能性はかなり低くなると考えられます。トライアル型のサブスクに「Webサイト上で引いたガチャ結果に応じて商品が決まる」「ユーザーに合いそうなアイテムがいくつか宝箱の中に入った状態で送られてきて、そのうちお気に入り一つを選べる」といったエンタメ要素を設けると、ユーザーはアイテムに愛着が湧き、保有先行の効果をより高められるのではないでしょうか。

②廃棄物の廃棄・再利用のための解決策

●     ECサイトで購入したものが合わなかったので返品する
●     リコールになった家電を回収してもらう
●     使い続けたいものを修理に出す
といった場合は、少々面倒でも発送対応をとらなければならない理由が顧客側にあります。

一方、使わなくなったものや壊れたが修理に出せないものはわざわざ送り返さずとも自ら捨てればそれで済んでしまいます。ただし生産者側としては、こうした局面にいる顧客からも製品を集め、資源の再利用を活発化させたいところです。捨ててしまってもいいような製品をわざわざ送ってもらうためにはどんな施策が有効か、という視点でアプローチしていきます。

ここでゲーミフィケーションボードから取り上げたいのは「関係欲求」と「自律欲求」と「獲得欲求」の3要素です。 

関係欲求
「他者を意識すること」によって動機づけられる、人の特性を活用する手法

自律欲求
人は物事を「自分事化」できると行動が喚起されるという点に注目した手法

獲得欲求
「希少性」によって動機づけられる、人の特性を活用する手法

 関係欲求からは「共通目標」を取り上げます。例えばアパレル企業が「全国から着なくなった服を100万枚集めるキャンペーン」を開催する、といったものをイメージしてみるとよいかもしれません。他の顧客と協力して達成する目標を設けるというのは動機づけをする手段の一つです。

さらにそこに、「寒そうにしている犬のキャラクターが100万匹いる。集めた服を再利用してみんなに着せてあげよう」といったオリジナルのストーリーを設けてみます。これは自律欲求「世界観」という要素で、ユーザーに没入感を与えるため特定のテーマを設定するというものです。

加えて、「参加すると得られる報酬を設ける」というのも効果的です。例えば、服を寄贈してくれたら非売品のノベルティを渡す、という手法があります。これは獲得欲求「手法制限」と言われる要素で、ものや機会の入手条件として、特定の行為を設定することによって、希少性を感じる人間の特性を利用しています。

このような世界観や報酬を設けると、廃棄物の廃棄や再利用に興味を持ってもらいやすくなるのではないでしょうか。

※「ゲーミフィケーションボード(Oボード)」は、当社で制作したCXデザインの独自フレームワーク「CXのあいうえおⓇ」の1つです。もう少し詳しく知りたい方は、以下をご参照ください


■ まとめ

ここまでお読みいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
リバースロジスティクスを構築する上では「スムーズに返品や回収を行うことができる体制は整えつつ、その量が過剰になりすぎてもいけない」ということに留意する必要があります。そのバランスをとるためには一つの解決策に留まらず、複数の施策を組み合わせることが必要です。そしてゲーミフィケーションは、その解決策の幅を広げたり、効果を高めたりする一助になると私は考えています。

弊社では、このようにゲーミフィケーションを活用して企業や社会の課題解決をするためのサービスを、企画〜開発、そして運営に至るまで、伴走してご支援することができます。

「ついやりたくなる」「やり続けたくなる」仕組みを取り入れて、今後も企業や社会の課題解決のために尽力していきます。

是非この機会に、皆さまもゲーミフィケーションの活用を検討してみてはいかがでしょうか。


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執筆:金谷 航|株式会社セガ エックスディー

2024年、新卒2期生としてセガ エックスディーへに入社。人気アニメ映画のプロモーションキャンペーンや社内イベントの企画・制作に携わる。バスケ・野球などのスポーツ観戦が趣味。


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